万物は 構造・機能 相即し
「認識」のもと 種社会が成る
<要点 / この本から得ること>
・豊富な生態系実地調査の経験をもつ生物学者による「生物とは何か」という根源的な思索の過程
・観察と思索の結果として、当時の学界で支配的だったダーウィン進化論をスタート地点から批判し、時代を先取りした画期的な進化論の誕生の瞬間
・”棲み分け”、”種社会”など、今西理論独特の概念の基本的理解
<概要 / 本書の内容をざっくりと>
戦争での死を覚悟し、著者自身の生物学者としての”自画像”を残す意図で書かれた思索中心の本です。
戦前に書いたとは思えないほど平易な文体で、具体的な生物名はほとんど登場せず専門用語もほぼ皆無ですが、とにかく根本的なところから思考を出発させ抽象的な概念を練り上げていくスタイルなので、じっくり噛み砕きながら読み進めるべき哲学書と言えます。
(下に続く↓)
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<書評 / あらすじ&レビュー>
第1章から3章までの「相似相異」「構造」「環境」について徹底的に基礎・原則に立ち戻って考えることで、これから思想を展開させる前に地盤を固め、第4章「社会」第5章「歴史」について独自の理論を披露しています。
「社会」や「歴史」というそれまでの時代では一般的に「人間のみ」に使っていた言葉を、あえて「生物の世界」に適用することに著者の学界への挑戦の意思が感じられます。
「無生物も植物ももとは同じ一つのものに由来する」
「生物とその生活の場としての環境とを一つにしたものが本当の具体的な生物」
など、分離して考えられがちなもの同士の境界を取り払った思考法により、独自の新概念「棲み分け」や「種社会」を生み出しました。
そして、ここから展開してダーウィン進化論、すなわち自然淘汰説を否定するに至っています。
また、一貫して生物の行動や進化など現象の裏に潜む原理から考察する立場は、およそ半世紀後に登場する”構造主義生物学”の先駆けとも言えます。
<抜粋 / ハイライトフレーズ3選>
・われわれの住む世界が空間的即時間的な世界であるということは、その世界を成り立たせているいろいろなものが構造的即機能的な存在様式を現わすということである。あるいは身体的即生命的な存在様式をとるものであるといってもよい。
・そもそも生物の個体というものは一つの複雑な有機的統合体である。全体は部分なくしては成立せず、このような全体と部分との、いわば自己同一的な構造を持つものであるがゆえに、生物個体の全体性はつねにその主体性となって表現せられるのである。
・もちろん生物が変異することは進化の端緒であり、創造の示現である。だから自然淘汰説は三六〇度の変異を認めて、生物の創造性を全幅的に認容しているではないかといわれるかも知れないが、結局環境に淘汰されていわゆる優勝劣敗の優者しか残り得ないものとするならば、生物のやっていることは創造でなく投機である。
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<参照したいサイト>
今西錦司の世界
特別講義「南方熊楠から見た、今西錦司『生物の世界』」の案内
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