植物はなぜ薬を作るのか(斉藤和季)2017年2月出版

草木の 毒を操り 進化する
生き抜くしくみ ヒトが拝借

 

<要点 / この書籍から得ること>

・2017年出版時点での植物生理学や遺伝子工学の最先端に近い知見の数々

・人間から植物を利用するものとしての視点ではなく、植物側に立ち生態学/生理学的な観点からの薬(=毒)が作られる理由の考察

・古今東西の薬物の取り扱いや医療/人体についての思想の違いや時代の変遷から、現在に至る薬学研究の歴史と、そして人類と生物工学の未来への展望

 

<概要 / 本書の内容をざっくりと>

理化学研究所や千葉大学院で現役の研究者である著者により一般人でも理解できるように書かれた最新の薬用植物研究の知見と、人間の視点でなく地球環境全体を視野に入れた生命活動の神秘が語られています。

(下に続く↓)
 

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<書評 / あらすじ&レビュー>

チンパンジーが寄生虫退治のために普段は食さない植物をかじることから、人類も太古にセレンディピティー(偶然の所産)や試行錯誤で植物に薬効を見出し、経験が伝承されてきたと考えられます。
その体系化の歴史として、東洋での『神農本草経』と西洋での『マテリア・メディカ』から始まり、生薬(天然由来の素材を精製しないで用いる)から成分が単離されたモルヒネの例を筆頭に西洋式の要素還元型の医療が主流となり、現在はそれが行き詰まり再び東洋的な全体システムが見直され、統合されつつあることが紹介されています。

この本のタイトルにもある「なぜ作るのか?」の回答は、”移動しない”生物である植物の立場から見て主に以下の3つの生存戦略に帰結します。
●同化代謝:土と空気と太陽エネルギーから自ら必要な成分を作り出す
●化学防御:身に降りかかるストレス(刺激・危機)に対し、防衛の手段に有効な成分を使う
●繁殖:受精や種を広げる際に利用できる動物を引き寄せる
この中でも”薬”として利用事例が多いのが化学防御で、このために作り出された成分が、「強い生物活性」「化学的多様性」があるため、人間など動物(主に神経系)にも特異的に作用するものが出てくるのです。

近年ではその薬効成分が合成される”5つの経路”(ポリケチド経路、シキミ酸〜、イソプレノイド〜、アミノ酸〜、複合〜)が明らかになり、さらに「ゲノミクス」「トランスクリプトミクス」「プロテオミクス」「メタボロミクス」、以上4分野の網羅的研究(=オミクス)によって植物の生体活動がより研究が進めやすくなってきました。

 

<抜粋 / ハイライトフレーズ3選>

・一番上等なのは不老長寿を支える薬で、根底には医食同源の考え方があります。現代において病気を治そうとして使っている薬はすべて下品(げほん)の薬であり、『神農本草経』から見ると、最も望ましくない使い方ということになるわけです。

・私たちが解熱や鎮痛、消炎などに使っている薬の元となる植物成分サリチル酸は、もともとは植物が病原菌と戦うために全身に情報を伝達して防御態勢を整えるために作られた化合物だったのです。

・植物は太古の昔から現代に至るまで、地球を決して汚さず、環境浄化をしながら有用な化学物質を作り出す、最も高度に設計され、注意深く運転されている浄化機能と物質生産機能を兼ね備えた理想的な精密化学工場であるということができるでしょう。その働きが、地球の持続可能性を支えているのです。

 

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<参照したいサイト>

千葉大学大学院薬学研究院遺伝子資源応用研究室

 

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