慈悲をめぐる心象スケッチ(玄侑宗久)2006年

透明な 賢治の怒り 昇華させ
菩薩行なす 無私を求めて

 

<この本から得られること>

・仏教用語の「慈悲」に関する多角的な考察と文学的表現

・『農民芸術概論綱要』の「世界ぜんたいが幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という思想の源泉と、宮沢賢治の人生への影響

・宗教者と文学者の両方合わせた著者と賢治の共通の立ち位置から見える心象風景

 

<こんな本>

臨済宗の僧侶で芥川賞作家でもある著者が、自分の感性の底にいる宮沢賢治について、「慈悲」をキーワード(”篝火”と表現)に、原典として『法華経』を紐解きながら分析し、著者の回想を賢治と重ねつつ思いを巡らせた10編構成の本です。

 

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「慈悲」の定義は第二章でなされますが、その他全編に渡って賢治の人生を振り返りながら個々の行動や作品から「慈悲」を見出し、印象的な表現を次々と残します。(下記参照)
●仏教者にとっては第一の命題
●自らの怒りが包み込まれる大海のような場
●胎盤の機能。異物を自分の内部で育む能力
●どんな言葉も溶暗した状態であり、いかなる行動にも還元できない心の在り方
●生きとし生けるあらゆる命への友愛
●無限のチューニング力
●身体体的な同期を伴う放散現象・からだから自然に放散する協調性のような気配
●泥のような現実を経験したからだが蓮の花のように健康を回復し、それによって無意識に発する波動のようなもの
●ミラーニューロンこそ慈悲の母胎(行為者と観察者の双方に等しく現象する)
●総てを聴くこと

『法華経』の信仰に生きたい賢治が、中でも特に重要な教え「回近顕遠」「開迹顕本」「開権顕実」(=”近くの現実の形に現れた仏である迹を通して、遠くにある本物の実相を見据える”)に従い、目の前の苦しむ農民たちを助ることに文字通り命を削る様を、著者は少し突き放した距離感で論じながらも、賢治への尊敬と驚愕が滲み出ています。

『農民芸術概論綱要』の解釈として、賢治作品全てのテーマである「宇宙感情」「宇宙意識」は「個人から集団社会宇宙と次第に進化する」=解脱を示し、「銀河系」は「仏」「仏性」あるいは「縁起」(=捉えきれない「一」なる全体性)を示していると読み取り、賢治が文章上の普遍化への配慮、つまり仏教者以外のあらゆる人に届く言葉をはっきり意図して使っていたことを明らかにしています。

 

<ハイライトフレーズ3選>

・言葉をそのまま行動に移そうとするから苦しい。だからといって言葉を行動の範囲に抑えることはもとより不可能だ。言語表現という技術には、すでにして極端を指向する性が内在しているのである。

・共振する相手は、むろん人間同士だけではない。これまでに述べたように動物や植物、あるいは山や川も含めた自然ぜんたいと考えてもいいだろう。少なくとも賢治はそのように感じ、田園での暮らしを選択したのだと思う。雲や風からエネルギーを受け取り、彼はあらゆる者と共振しあう「本当の幸福」を目指したのである。

・この高邁な素晴らしい言葉の結晶は、むしろ賢治の哀しいほどに不如意な現実が実現させたことを忘れてはならない。

 

<参考サイト>
ガイダンス・コラム記事一覧@二十四節気
『農民芸術概論綱要』全文ー青空文庫

 

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<主な参考文献>
銀河鉄道の夜(宮沢賢治)1934年
・農民芸術概論綱要(宮沢賢治)1926年

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