還元と 決定論さえ 破綻する
カオスの発見 パラダイムシフト
<要点 / この書籍から得ること>
・ギリシャ時代から複雑系の誕生に至る現在までの、科学の発展のおおまかな歩み
・「生命」についての考察(自律・新陳代謝・自己組織化・恒常性・学習・自己複製など)から、「人工生命」の3つの分野(ハード・ウェット・ソフト)の研究経緯と、「人工知能」の概念の紹介
・複雑系科学の中心であるサンタフェ研究所(SFI)での思想や目標・方針など
<概要 / 本書の内容をざっくりと>
アモルファスや複雑液体(液晶や不均一液体など)を研究する理論物理学者による、1980年代のブームの時期から10年ほど経った出版時点でもスタートラインにある研究分野の輪郭を主に科学史から読み解く内容で、平易な表現で大変読みやすい「複雑系」科学の一般向け概要書です。
(下に続く↓)
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<書評 / あらすじ&レビュー>
冒頭に「複雑な系を複雑なまま把握する」「世界自身に語らせる」と語るSFIの創設者アンダーソン(ノーベル物理学賞受賞者)の講演から始まり、それに対して物理屋としての著者の信念である「森羅万象の営みを複雑にしているさまざまな原因の中から、表面的な複雑さを取り除き、単純な本質をとらえる」姿勢は矛盾せず、複雑系研究においても基本方針であることを確認しています。
人類の科学史を下記3つに大きく分け流れに沿って詳述し、近年、複雑系の研究が盛り上がってきた経緯を浮き彫りにしています。
①ギリシャ時代(自然哲学・経験科学)から近代科学以前
②科学革命(デカルトの『方法序説』明晰性・分析・総合・枚挙)から19世紀終わり
③20世紀(量子論・コンピュータの発達から、カオスの発見など)
物理学における古いパラダイム(=近代の思考)を2つ挙げると、《決定論的力学の安定性信仰》《要素に還元する分析的手法》となります。
前者はカオスの発見により、後者は主に生命現象の探究に関してコンピュータの発達で分析の限界が見えたことにより、ブレークスルーが起きそうな時代となりました。
「分析的な手法に代わる新しいパラダイムの構築」が、複雑系研究の大目標の一つです。
<抜粋/ハイライトフレーズ3選>
・ローレンツが見つけた現象を、専門的な言葉では「初期値に対する非常に敏感な依存性」と表現しています。初期値というのは最初に与えたインプットの値です。それがほんの少し変わっただけで結果は大きく変わるという発見で、これがカオスの研究のスタートとなりました。
・分子生物学の究極の地が視野に入り出す段階にまで達して、初めて、要素に分析しても生命を突きとめることができないのではないか、という認識が芽生え出しました。生き物の科学に対するこのような状況が、複雑系の研究のひつつの引き金となったようです。
・ 「自然科学の分野には、物理学、化学、生物学などがありますが、自然そのものは、これらの専門分野に義理を立てて、物事を進めてはいませんよね」(サンタフェ研究所サイモン副所長の会見で)
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<参照したいサイト>
「スピノザと複雑系から、”いのち”を考える」(筆者による講義のお知らせ)
<主な参考文献>
・生命とは何か(エルヴィン・シュレーディンガー)1944年
・サイバネティクス(ノーバート・ウィーナー)1948年
・科学革命の構造(トーマス・クーン)1962年
・皇帝の新しい心―コンピュータ・心・物理法則(ロジャー・ペンローズ)1994年
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