山を越え ”具体”を駆けた 今太閤
『列島改造』 黒く散りゆく
<要点 / この書籍から得ること>
・農村出身で小学校卒の男が首相にまで上り転落するまでの全ての詳細な過程
・角栄の若い時の経験に基づく実践的な思考方式や、人間味のあるセリフの数々
・昭和史の大まかな流れと、角栄の閣僚時代以降の詳細な政局内情
<概要 / 本書の内容をざっくりと>
朝日新聞の番記者であった著者が、国家像を見失う平成の日本政治を憂い、身近に追い続けた角栄が戦後の混迷を駆け抜けた「歴史の狡智」を吐き出しておくことで、真の民主主義のためのヒントとしてもらうことを願って書き残した本です。
(下に続く↓)
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<書評 / あらすじ&レビュー>
少年期、同郷の大河内正敏(理化学研究所所長)に目をかけられ理研コンツェルンに入り込み土建業で身を立て、戦後すぐ大金を稼ぎ20代で政治家となるまでの物語は、角栄本人の書いた『私の履歴書』や回想録の引用だけでなく関係者への直接取材も盛り込みリアルで、政治を全く知らなくても惹き込まれます。
”道路”で辣腕を振るい猛スピードで成り上がり、38歳で入閣した”郵政”では後年に小泉純一郎が「ぶっ壊す」まで長年自民党の体制であった「官につながる事業をめぐるカネと票のコングロマリット」を作り上げ、佐藤栄作の長期政権を支えた閣僚時代の出世街道も、人心掌握の巧みさや実利を最速で実現する政治手法を詳しく描き出し、読み応えがあります。
ただし、政局用語や人物名が多く飛び交うため昭和史について疎いと読みやすくはない部分です。
首相時代では、周恩来や毛沢東との大胆なやりとりから信頼を得て今なお中国で人気が高い角栄の日中国交正常化の成果は華々しいですが、以降、『日本列島改造論』の胡散臭さ、小選挙区騒ぎ、石油危機、企業ぐるみの参院選、と失敗を重ね辞任とロッキード事件まで転落する様も、周辺状況や関係者の人物像も書くことで詳細に浮かび上がらせます。
さらに「角栄伝道者」の秘書早坂茂三氏の談話や、妻以外の女性2人(花柳界の辻和子と秘書の佐藤昭)との関係など秘められた私生活も含め政局での立ち回りの渦中での心情を絡め、角栄の人間味と共に生々しく書かれています。
政局運営では時勢を捉える変わり身の早さ(潔さ)が強みだったにも関わらず、ロッキード事件でなぜか最後まで罪を認めなかった(関係者の証言など状況証拠としては明らか)ことを、戦後日本と重なり合う角栄の人生の「上り」の終着の象徴として感じさせます。
<抜粋 / ハイライトフレーズ3選>
・田中角栄に対するもっとも鋭い批判者となる立花隆は、「抽象思考ゼロの経験主義者」と断じた。実感的、経験的、そして人生訓的であることは、角栄の生涯の思考形式である。
・辺境、下層、若さ。これが一九四九年の角栄の本質だった。
・「角福戦争」は、何よりも政治への態度の違いだろう。福田は「政治は最高の道徳」と言い続けた。(中略)角栄のそれは「政治は力」である。力がなければどんな理想も実現はできない。(中略)「成り上がり」と「エリート」の差だった。
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<参照したいサイト>
新ポリティカにっぽん 記事一覧 @朝日新聞デジタル
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