観音が シャーリプトラに 語りかけ
空性で説く 智慧の心髄
<要点 / この書籍から得ること>
・現代科学にも照らし合わせた『般若心経(大本)』の軽妙洒脱な文体での詳細な解説と、それに準じた『般若心経(小本)』の明快な現代語訳
・空海、良寛の書いた遺墨の他、絵心経やサンスクリット写本などのビジュアル資料
・般若心経を理解するのではなく暗唱することの、筆者の体験を踏まえた意義
<概要 / 本書の内容をざっくりと>
芥川賞受賞者で臨済宗の僧侶である筆者による『般若心経』の現代語訳です。
舎利子(”知恵第一”と呼ばれるブッダの弟子代表シャーリプトラ)の「立派な若者が智慧を実践したいとき、どのように学べばいいのか」という質問に、観音菩薩がブッダに代わり飄々と軽妙に回答しているスタイルで書かれています。
(下に続く↓)
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<書評 / あらすじ&レビュー>
般若とは「理知によらないもう一つの体験的な”知”の様式」と定義することを皮切りに、「空即是色」の「空」や「色」をサンスクリット語やパーリ語(北インド地方の言語でブッダたちが実際に使っていた)の本来の意味から出発し「縁起」に絡めて「空」の概念を詳細に解説しています。
「色」(=形あるもの)を、六境(色声香味触法)と六根(眼耳鼻舌身意)の相互作用による”現象”と説明する際には、現代科学の知見をふんだんに盛り込み、しかも分かりやすく具体例を交え、知的好奇心を満たす意味でも楽しく読み進められます。
「言葉が実体を否応なく分断し、それを文字がさらに確定的に印象づけている」と述べて「言葉」の持つ力の限界について繰り返し説き、老荘など中国思想からも援用しながら、「名」をつけることで見えなくなる”知”の様式があり、「私」という概念がつくられ「悟り(=般若)」から遠ざかってしまうことを気づかせます。
「「意味」を超えた音の響きは、意味を捉えようとする大脳皮質を飛び越えて直接「いのち」に働く」と考え「声聞」の響きの大切さを強調し、呪文の部分(ガテー・ガテー・パーラガテー・パーラサムガテー・ボーディスヴァーハー)は「意味がわからなくていい」として実際に意訳せず音写のみ紹介しているのも本書の特徴です。
<抜粋 / ハイライトフレーズ3選>
・仏教的なモノの見方をまとめるなら、あらゆる現象は単独で自立した主体(自性)をもたず、無限の可能性のなかで絶えず変化しながら発
生する出来事であり、しかも秩序から無秩序に向かう(壊れる)方向に変化しつつある・インドの人々は、分割できない元素が集まって世界を構成するのは、最終的には無理だと判断しました。純粋に論理的にです。
・般若とは、裸の「いのち」が本来持っている生命力への気づきでもあります。「空」というのは、「私」というものを抜きにした事象の本質的な在り方なのです。それを感じる主体は自他の区別がつなかい状態で全体に溶け込んでいます。
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<参照したいサイト>
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