揺れ立ちて 時空にたゆたう 水柱
多層がうたう いのちのリズム
<要点 / この書籍から得ること>
・樹木を始め生命を見る際の思考のスケールが宇宙レベルにまで拡張させられる
・対象の持つ美しさを最大限引き出す視点と、意外性のある語彙の組み合わせによる卓越した表現の数々
・視野が矮小化された環境問題に対する態度を、より知性的・美学的に捉え直した次代の人類文明の提案
<概要 / 本書の内容をざっくりと>
一言で紹介するなら、「美しい詩集のような、現代文明への警鐘」です。
植物を「人間とその環境世界のつながりを担保する媒介者」「人間の成長を導く鏡」「人間との絆を通じて地球生態系の新たな次元を創ってきた共進化のパートナー」と考え、それを全編に渡りポエティックで官能的でさえあるボキャブラリーを駆使し、伝承など古今東西の具体事例・科学的知見とともに語っています。
(下に続く↓)
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<書評 / あらすじ&レビュー>
第一章「色彩の時間論」で、アーユルヴェーダと染色技術における”時期”の意義と、植物から「薬」や「色」の力を貰うフィトセラピーの本質を見つけ、第二章「宇宙的器官としての樹木」では、植物の身体が生態的にも遺伝的にも多層であるだけでなく、宇宙の中に循環経路として開放された構造であることを解説します。
さらに第三章「工の思想/森の思想」で、宮大工、ボルネオの焼畑民、人工自然(水田、里山など)を具体例に、世代を超えた社会経済資本として「森」の経験資源に気づかせ、第四章「パートナーの木」では、北極圏近くのラップランドのシャーマンの太鼓における人間と樹木が契約を結ぶ話や、ケルトの樹木信仰を受け継ぐウェールズ出身のC.W.ニコル氏が祖母から「木と兄弟になりなさい」と教えられたエピソードなど、樹木との”個別関係”による真の森林保護の考え方が提示されます。
そして第五章「人間と植物の共進化にむけて」と終章「現在する宇宙樹」がハイライトでしょう。
ハイポニカ農法の驚異的なトマトを例示し「人間の地上的な常識を括弧にくくって、虚心坦懐に植物の本来もつ多様な可能性に眼を開いてみよう」と呼びかけ、これまで見てきた樹木・植物の持つ力を振り返り、樹功や樹木性愛(自他が融解する森の「性」のイメージ)も含め古代から人間が樹木へ抱いてきた特別な想いを、イエスやブッダの物語やナウシカ・ラピュタの宮崎駿氏の作品とも絡め説き明かしています。
<抜粋 / ハイライトフレーズ3選>
・樹は宇宙が自己を成就する「場」なのだ。これは個は世界全体としてしか存在しえないという形で述べた、”メタ樹木”に他ならない。
・天界をトリップしてするシャーマンの超常的な意識変容技術とドラムの交信能力そのものも、実はこの特定の木との「パートナーシップ」に支えられたものだ
・それ(ブッダやイエス・キリストの「空の思想」/「慈悲」の思想)が”樹木と人間の共進化”を予感させるイメージーー「菩提樹」や「十字架」に同一化した超越的人間像ーーに託しつつ提示されたのは、いわば二万年にわたる森と宇宙樹の人類史的原体験の再上演ともいうべき、必然的なプロセスだったかもしれない。
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<参照したいサイト>
宇宙樹 | 靄靄読書録
竹村真一『宇宙樹 cosmic tree』| 風のブックマーク2
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