南方熊楠-日本人の可能性の極限-(唐澤太輔)2015年4月出版

世界中 ”深友”の夢 伴いて
極端人の 浮世の間

 

<要点 / この書籍から得ること>

・熊楠の波瀾万丈の人生をひと通りほぼ時系列でつかめる

・出版時点(2015年)の最新の熊楠研究の総まとめ

・「東洋と西洋」「南方曼荼羅」「神社合祀反対運動で日本最初のエコロジー」など、各思想の概要

 

<概要 / 本書の内容をざっくりと>

各時代の活動の紹介に沿って思想の解説にも触れるわりにはボリュームも大き過ぎず、全体的にバランスの良い印象で、熊楠を理解する入門書として最適かと思われます。
柳田國男による「日本人の可能性の極限」との評を基に「極端」な人物として熊楠を据え、「夢と現実」「他者・対象物と自己」との距離の取り方が常人と異なる彼の特質からの視点をもって、珍事や思想の原点を探るように解き明かしています。

(下に続く↓)
 

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<書評 / あらすじ&レビュー>

南方熊楠という稀代の天才・奇才の伝説的な人生とその独自の思想を探求・解説した書は数多く、本書はそれらの引用も多いため熊楠研究の総ざらいとも言えます。

ただし、人生の流れに従い人との出会いや出来事から別の時代での思想へつながるジャンプが随所に織り交ぜられたり、若年期の”深友”(身体的な”深い”関係もあったかもしれない羽山兄弟)がよく登場する夢日記からの分析が広く見られ、著者独自の視点に面白味があります。

熊楠が非常に多筆であるのは、蓄積し過ぎた知を文字に吐き出し自身の内にスペースを空けるためとし、それが膨大な日記や書簡、学術誌への論考となったと考えます。
そして、普通の人間では「理不思議(※)」の領域に入るには高い集中力が必要なところ、熊楠は逆に容易に入れ、むしろ常に気を張って自己を保とうとしなければ理不思議から出られなくなってしまう、という常人と異なる点に注目し、彼の深淵で広域な思想活動や語り継がれる人柄・奇行を分析しています。

※理不思議:物理世界(物不思議)や精神世界(心不思議)、その2つの作用で生じる事不思議という3つの人間の認識できる世界のより上位にあり、かろうじて人間も知覚しうる世界。なお、さらにそれら4つの領域を包括する大不思議(=大日)という区別も対立もなく生も死も全てが帰還する根源的な「無」の世界がある。(この5つの世界の構造を表した図が「南方曼荼羅」)

 

<抜粋 / ハイライトフレーズ3選>

・熊楠は書籍の世界を丸ごと掴み取ろうとしていた。おそらく、書籍の世界から現実の世界へなかなか戻れない(元の自分へ帰れない)こともあったのではないだろうか。熊楠が退路を見失うほどにのめり込んだのは書籍に限らなかった。森(自然)あるいは粘菌という生物に対してもそうであった。

・「東亜特質の文明を造成」し、その上で「諸外邦と拮抗競争」すべきであるとも述べている。東アジア諸国には東アジア諸国独自の、西欧諸国には西欧諸国独自の文化・宗教がある。世界各国にとって最も重要なことは、その国々の独自性(特色)を伸ばし、それらを認め合いつつ競合(あるいは協合)することなのである。

・地位や名誉には執着せず、東洋と西洋に関する深い学識を持った人物。そして何よりも、人間とそれ以外の世界への率直で公平で、しかも私心のない観察者ーーこれこそまさに南方熊楠という人間なのである。
(ロンドン大学事務総長、東洋学者ディキンズからの結婚祝いに添えられた手紙の解説)

 

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<参照したいサイト>

熊楠の風(『映像歳時記 鳥居をくぐり抜けて風』の公式サイト内)
(筆者のフェイスブック投稿に著者からコメントをいただきました)
南方熊楠は”人間版”インターネット? @『インターネットと農業』

 

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